好転反応、という言葉、一度くらい訊いたことがあるだろう。

 瞑眩反応、ともいう。

 もともと漢方や鍼灸など東洋医学の用語であり、治療の過程で一時的に体調が悪化してしまう反応のことをいう。

どんなことが起こるの?

 症状としては、

  • 眠気、倦怠感、疲労感が出る。
  • 熱が出る。
  • 下痢になる。逆に便秘になる。
  • 皮膚炎や湿疹が起こる。
  • フケ、垢などの排泄物が増加する。

 などなど、実に様々。

 なぜこんなことが起こるのかというと、それは身体の中の解毒、排泄作用が高まっているから。

 ほったらかしにしていた汚部屋を掃除したなら、埃が舞いあがって一時的に不快な状態になるかもしれない。押入の中の不要品を整理するなら、きれいだった部屋がその過程で一時的に散らかってしまうこともあるだろう。そんなイメージだ。

 風邪を引いたときに出る症状…熱、くしゃみ、鼻水、咳、といった症状も、好転反応といえるだろう。あれらはすべて、免疫機能が悪性ウィルスを殺すために起こしているのだから。

 極めてもっともなことであって、この好転反応という症状は、決して有害な副作用ではないのである。

 ただ問題なのは、それが好転反応なのか悪い副作用なのか、その判別が容易にはつかないことにある。

好転反応だと信じてみたが……

 まあよくあるパターンである。

 ネット通販で、とある健康食品を買ってみたわけだ。

 その紹介ページには、実に魅力的な宣伝文句が満ちあふれている。これで人生が変わったという人がいっぱいいるそうだ。こりゃ試すっきゃない!

 とりよせて、さっそくワクワクしながら摂取する。

 即座にどうということはないが、翌日、ちょっとお通じが良くなったような気がする。効いてる効いてる…と嬉しくなる。

 しかしその翌日、逆に今度はお通じが悪くなったような感じがする。

 まあたまたまかな、と思い気にしない。

 しかし次の日も、また次の日も。なんだか日に日に、身体がだるくなるような感覚がある。また脇のあたりに湿疹が出てきたような感じもする。

 そこでちょっとその健康食品に対する不審の念が芽生える。

 ネット上の掲示板などでそれに関する意見を収集する。自分と同じような症状を抱えている人がいるではないか。そしてそういった人たちに対し、その健康食品の愛好家たちが、

「好転反応だよ。効いてる証拠。がんばって」

「三ヶ月くらい続ければ慣れるし効果も出るよ」

 そう声をかけている。

 なるほどこれが好転反応であったか! と嬉しくなって、その健康食品をとりつづける決意を新たにする。

 例の素敵なマーケティングページに再び赴き、購入者の体験談だの、その健康食品がどう効くのかを解説する文章だのをニヤニヤしながらながめる。

 しかしながら、どれだけたってもその「好転反応」が収まる感じはない。元気が得られるどころか、体調は少しづつ、確実に悪化してゆく。

 またネット掲示板などをあさる。

「どうしてもつらいひとは量を減らしてみるといいよ」

「いったんやめてみるといいよ」

 そんな意見もある。

 さもあらんと思い、摂取を三日くらいやめてみる。

 なんだか体調が戻ってくる。

 よし、もう大丈夫だろうと考え、その健康食品の摂取を少量から再開する。特に問題はない感じだ(身体にいい影響も感じられないが)。

 改めて例のマーケティングページに行き、解説文をニヤニヤしながらながめる。

 魅力的なそのページを何度もながめすぎて、いまだなんの利益も得られてないにも関わらず「この健康食品を摂取しないなんてあり得ない」「それは人生の損失だ」と思い込んでいる。

 摂取量を、だんだんと普通に戻していく。

 それに反比例して、やはりまた、体調は悪くなっていく。

 心の片隅くらいでは「この健康食品は自分にとって毒だ。もうやめろ」と叫ぶ部分も在るのだが、やはり支配的なのは「これを手放すなんて人生の損失」という思い込みである。

 また「自分の間違いを認めたくない」心理もあるのかもしれない。続ける。摂取を続ける。

 ついに三ヶ月目に到達する。多くの健康食品において「最低三ヶ月は続けてみましょう」といわれるあの「三ヶ月」だ。さてどうなっているかというと……

 ボロボロである。

 あの「好転反応」はまるで収まる様子もなく、また身体が慣れる様子もさっぱりない。

 体調は日に日に悪化し、精神的にもまいっている。

 そこまできてようやく「こいつは自分にとって毒だ。やめろ」という、あの声に従う気になる。

 私はこんな悲劇…いや喜劇を、人生でなんども演じている。

自分は騙されていた!

 自分は騙されていた! なんてことをいうつもりはない。

 MCTオイルのときも同じような話をしたが、たまたま私には「合わない」食品だったのだと思う。

 また刺激の強い食品や薬品を始めるときには、最初の一週間とかを「慣らし」期間としてごく少量のみ摂る、という手段を取るが、そういったことを怠ったための結果だったのかもしれない。

 ただ、身体に不快な症状があるのに、素人がそれを好転反応だと思って喜ぶ…などというのは実に滑稽であるし、また危険だ。

 もちろん、冒頭で書いたとおり、好転反応というのは確かに存在する。

 また悪い作用と良い作用、両方をあわせ持つ食品・薬品もある。

 ただ、あくまで基本的には、身体は有益な物を摂取すれば良い反応を返すし、合わない物や有害な物を摂取すれば悪い反応を返すものだ。

 信頼できる医師や指導者のアドバイスを受けられる状況にないのなら、「好転反応」の出る健康食品はやめておくのが無難だろう。

世の中には即座によい反応を得られるものがたくさんある

 いまでは、なんらかの食品を食べて、自分の身体に変な影響が現れたなら、私は即座にその食品の摂取を停止する。

 もちろんそれは「好転反応」だったのかもしれない。

 摂取を続けていればいいことがあったのかもしれない。

 でも、そうではなかったとしたら……また数ヶ月という決して短くない期間をドブに捨てることになる。

 それがいやだし、また私は、「好転反応」だの「効果が出るまでの3ヶ月」だのを経ないでも、即座に(数日中に、翌日に、半日以内に、一時間以内に、食べたその瞬間に)すばらしい効能を発揮する食品、というのを、いくつか経験している。

 バタチョココーヒーがそうだ。ブルーベリーもそうだ。

 良質のスペシャリティコーヒー、ブロッコリー、オレガノ、プロバイオティクスプレバイオティクスエビオスマグネシウムサプリ、等々……。

 もちろん、即座に良い効果を得られても、続けているうちに副作用が出てくる場合もあるわけだが、それはそれで、副作用が現れたそのときに考える。

 もし自分自身の食生活の工夫ではどうにもならない不具合が現れたら?

 そのときは普通に医者に行くだろう。

 そうして「副作用」なり「好転反応」なりが存在するものを勧められれば、その説明をきちんと受け、知識を得た上で摂取するだろう。

 動物は、自分の身体に合わないものはほとんど口にしない。

 本能的に、自分の身体に適する物しか摂らないのだ。

 犬が、整腸剤代わりに雑草を食ったりすることもあるが、症状が治まれば本能的にやめる。

 人間はなまじ知恵があるゆえに、妙なものを摂取してしまう。し続けてしまう。皮肉なものである。

【writer : doku】